DDW2012 WILL Medical Congress Report


高地への旅行およびフライトは炎症性腸疾患患者の再燃リスク増加と関連する
閉経後女性におけるホルモン補充療法と潰瘍性大腸炎およびクローン病の
リスクについて:米国大規模コホート研究の結果から
免疫調節剤および生物学的製剤を投与された炎症性腸疾患を有する女性
1000例における妊娠の転帰に関する前向き登録試験:

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High-Altitude Journeys and Flights Are Associated with the Increased Risk of Flares in IBD Patients
S.R. Vavricka氏(チューリッヒ大学病院、スイス)

高地への旅行およびフライトは
炎症性腸疾患患者の再燃リスク増加と関連する

 スイス、チューリッヒのTrieml病院からの報告において、フライト経験や高地への旅行が炎症性腸疾患(IBD)患者の再燃リスクを増加させる可能性が示唆されている。これらはクローン病および潰瘍性大腸炎(UC)の両者に影響をもたらすが、クローン病でより顕著であるとしている。
 本研究のきっかけとなったのは、スキーや登山の翌日から1週間以内にIBD再燃の著明な増加が報告されたことである。本研究では、過去1年間にIBDクリニックを受診した患者103例を、再燃経験群52例と寛解維持群51例に分け、調査前4週間の行動について調査した。2群の背景因子を補正し比較した結果、再燃群ではフライト経験もしくは海抜2,000m以上の地域への旅行頻度が有意に高いことがわかった。
 Trieml病院消化器内科チーフのStephan R. Varicka氏によれば、生体のどの組織においても酸素欠乏(低酸素症)は炎症を引き起こすが、IBD増悪の機序に関するデータはほとんど得られておらず、「腸内において低酸素症がどのように再燃を引き起こすか、分子レベルでの詳細な検討が求められる」と同氏は述べている。
 本試験における2つの患者群では、年齢、喫煙、スポーツ活動、最近の抗生物質による治療、COPDといった背景因子が調整されていた。しかし、スキー、ハイキング、登山あるいは酸素の薄い高地への訪問に対し、酸素濃度が管理されたフライトの経験の有無が症状や重症度に影響を及ぼすと結論づけるには試験サンプルが小さい。
 Vavricka氏は低酸素症の関連を検討するため、より多数例における前向き調査を計画しており、「患者に対して飛行機に乗るのを禁じたり出かける先を制限するのは時期尚早である」としている。
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Hormonal Replacement Therapy and Risk of Ulcerative Colitis and Crohn’s Disease Among Postmenopausal Women: Results from a Large Prospective Cohort of U.S. Women
H. Khalili氏(マサチューセッツ総合病院、米国)

閉経後女性におけるホルモン補充療法と潰瘍性大腸炎
およびクローン病のリスクについて:
米国大規模コホート研究の結果から

 ボストンのマサチューセッツ総合病院での新たな研究において、ホルモン補充療法が潰瘍性大腸炎の進展に影響を与える可能性が示された。これまでの研究により、閉経前の若年女性では経口避妊薬の常用によってクローン病リスクが増加することが明らかとなっている。本研究では、年配の閉経後女性に対するホルモン補充療法もまたリスク増加をもたらすか否かについて検討した。
 米国で実施されたNurses’ Health Study*に参加した10万人以上の被験者の17年余にわたる調査において、ホルモン剤使用による潰瘍性大腸炎およびクローン病のリスクへの影響を評価した。その結果、ホルモン剤の使用は潰瘍性大腸炎リスクを70%増加させたが、クローン病リスクとの関連はみられなかった。また、潰瘍性大腸炎リスクは、ホルモン剤の使用が長いほど増加し、中止期間が長いほど減少したが、ホルモン剤の剤型によるリスクへの影響に、違いは見られなかった。
 本研究の結果を踏まえ、マサチューセッツ総合病院 消化器科研究員のHamed Khalili氏は、エストロゲン経路が潰瘍性大腸炎の進展に何らかの役割を果たしている可能性が示唆されると指摘した。また、ホルモン療法がクローン病ではなく潰瘍性大腸炎のリスクのみに関与する理由として、エストロゲン受容体は小腸ではみられず主に大腸に存在しており、クローン病が多くの場合小腸と大腸を侵襲するのに対して、潰瘍性大腸炎は大腸のみに発症することや、経口エストロゲンが潰瘍性大腸炎発症に関連している腸透過性の変化に関与することをあげている。
 Khalili氏は本試験によってもたらされた結論について、「リスクは事実ではあるものの、潰瘍性大腸炎進展の確実なリスクとしてはその影響力は小さい」とし、ホルモン剤の使用をすべきでないと結論づけることに警告を発している。

* Nurses’ Health Study: 12万人以上の看護師による薬剤の使用歴(経口避妊薬やホルモン使用など)、病歴、身長、体重についての郵送による質問票を用いて、1976年に開始された試験。90%以上の追跡率で2年ごとに調査が行われている。2008年までの追跡期間中、138例のクローン病と138例の潰瘍性大腸炎が確認されている。
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PIANO
PIANO: A 1000 Patient Prospective Registry of Pregnancy Outcomes in Women with IBD Exposed to Immunomodulators and Biologic Therapy
U. Mahadevan氏(カルフォルニア大学サンフランシスコ校メディカルセンター、米国)

免疫調節剤および生物学的製剤を投与された
炎症性腸疾患を有する女性1000例における妊娠の
転帰に関する前向き登録試験:

 妊娠中の炎症性腸疾患(IBD)患者に対する生物学的製剤や免疫調節剤の使用は、新生児の先天異常や成長・発達異常、その他合併症の増加と関連しないことが、米国30ヵ所のIBDセンターにおいて1,100例の妊婦を対象とした多施設プロスペクティブ試験により明らかにされた。本研究は、カルフォルニア大学サンフランシスコ校 大腸炎・クローン病センター内科学准教授 兼 コメディカルディレクターのUma Mahadevan氏によるもので、チオプリン系薬剤と抗TNF製剤の使用は、病型や疾患活動性で補正後も、流産、先天異常、早産、子宮内胎児発育遅延、帝王切開、新生児集中治療質滞在日数のいずれの増加にも関連しないこと、また、服用薬の種類を問わず、授乳は感染症リスクの増減に関係しないことが示された。一方、12ヵ月時点での新生児感染症は未治療群に比べ、チオプリン系薬剤+抗TNF製剤の併用群において有意に増加することがわかった(RR 1.50[1.08-2.09])。
 生物学的製剤服用によって先天異常が増加しなかったという結果は大きな意味を持つ。「妊婦に対する生物学的製剤の処方継続が可能となり、それによって寛解が維持できることで、合併症の減少だけでなく、新生児へのよりよいケアもできるようになる」とMahadevan氏は述べる。
 同氏らは、登録された1,100例の女性および乳児を1年後まで追跡後、乳児の発達状況を観察するため、引き続き3年間の追跡研究を開始する予定である。
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