DDW2018 WILL Medical Congress Report


腸音聴取により過敏性腸症候群(IBS)の診断を改善
改善可能性のあるC型肝炎/肝硬変を予測する遺伝子マーカーの同定

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Listening to Gut Noises Could Improve Diagnosis of Irritable Bowel Syndrome
B. Marshall氏(ウェスタンオーストラリア大学マーシャル・センター、オーストラリア)

腸音聴取により過敏性腸症候群(IBS)の診断を改善

 過敏性腸症候群(IBS)を低侵襲に診断する方法として、人工知能(AI)を用いて患者の腸で生じる音を聞き取るacoustic belt(聴覚ベルト)が開発された。「IBSは、診断が難しいことで有名な疾患である。IBSのような慢性の消化管疾患特有のパターンを同定するため、もともとシロアリが餌を食べる音を追跡するために開発された音探知技術を用いて、ヒト腸内における問題を同定できるかを検討した」と、ウェスタンオーストラリア大学マーシャル・センター所長、B. Marshall氏は語る。Marshall氏はWarren氏とともにH.pyloriを発見し、その胃炎・消化性潰瘍性疾患における役割を解明したことによりノーベル医学生理学賞を受賞した研究者である。
 IBSはありふれた疾患であり、腹部膨満感、下痢、便秘などをひき起こし、しばしば痛みを伴う。世界の人口の10パーセント以上に影響を及ぼしていると推定されるが、IBSの診断は困難で大腸内視鏡検査を要することも多く、多数の診断未確定例や未治療例が存在する。
 Marshall氏らは、腹腔内で収集された音の複雑な特徴やパターンを同定する試作ベルトを開発。IBS既診断例および健康成人にこのベルトを着け、絶食後の2時間、および標準食の摂食後40分間、被験者の腸音を録音した。ベルトから出力された腸音を用いることで、IBSを高い精度で予測することが可能であった。そこでIBS患者31例および健康成人37例の記録を用いて、IBS腸音指標モデルを作成し、「一個抜き交差検証」と呼ばれる統計方法を用いた結果、このデータセットによるIBS診断の感度は90%、特異度は92%であった。次に異なるIBS患者15例および健康成人15例を用いた検討においても、IBS診断の感度は87%、特異度は87%であった。 「本研究においてコンセプトの証明を達成することができた。ベルトを更に改良し、より多数例で検討すれば、プライマリケアにおけるIBS診断に適したツールとなるだろう」と、本研究に携わったウェスタンオーストラリア大学のMuir氏はいう。オーストラリアの別の研究者も、「痛みを伴い、時に衰弱させる病態を診断するための、より低侵襲な方法を提供する新技術となってもらいたい」と期待する。
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Study Identifies Genetic Markers that Predict Which Patients with Hepatitis C and Cirrhosis Will Improve with Treatment
W. Dunn氏(カンザス大学医療センター、米国)

改善可能性のあるC型肝炎/肝硬変を予測する遺伝子マーカーの同定

 C型肝炎ウイルス(HCV)による肝硬変患者の遺伝子評価が、C型肝炎治癒後の回復可能性の予測に役立ち、肝移植の必要性を最小化する可能性がある。「肝疾患の最終ステージにあっても、C型肝炎治療により最も利益を得ることができる個人の同定にヒトの遺伝子構造が役立つ可能性があるため、本知見はprecision medicineへより近づけるものとなる」と、カンザス大学医療センター準教授、W. Dunn氏は語る。
 HCVを有する多くの患者で、直接作動型抗ウイルス薬(DAA)が奏効するが、より重篤な非代償性肝硬変患者や肝損傷例では、治療後も改善がみられないケースや増悪を経験するケースがある。
 Dunn氏らは、PNPLA3遺伝子のDNAの一塩基対の変異型であるRs738409一塩基多型に注目した。PNPLA3遺伝子は、アルコール性肝疾患と非アルコール性脂肪肝疾患における最も重要な危険因子で、CC、CG、GGの3つのタイプがある。
 本研究では、インターフェロン・フリーのDAA(sofbuvir / lediposasvirやsofosbuvir / simeprevir)により持続性ウイルス学的著効(SVR)に達した非代償性肝硬変患者32例を追跡し、SVRから12〜48週後に、慢性肝疾患の重症度を評価する2つの項目(End-stage Liver Disease [MELD]およびChild-Pugh [CPT]スコアModel)の変化を評価した。
 抗ウイルス療法後、CGまたはGG遺伝子型を有する16例の患者のうち5例で、MELDまたはCPTスコアの悪化を認めたが、CC遺伝子型を有する患者でいずれかの悪化がみられたのは1例のみであった。
 「これまで、治療開始時において同等の重症度を有する患者のなかから、回復可能性のある患者を特定する方法がなかったが、今回の知見から、C型肝炎非代償性肝硬変患者におけるRs738409 CGおよびGG遺伝子型は、C型肝炎の『治癒』後、回復しそうにない患者を同定する上で役立つ可能性がある」とDunn氏は述べた。
 Dunn氏は次のステップとして、これらの遺伝子型の存在が健康転帰の悪化につながるメカニズムの検を挙げ、脂肪肝とインスリン抵抗性がDAA治療後の回復にどのように影響するか、また、これらの所見が脂肪肝の遺伝子マーカー(Rs738409)と関連するかについて検討したいと述べた。
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